文豪たちに愛された名邸「起雲閣」で大正ロマンに触れる観光

「起雲閣」は20世紀初頭に築かれた熱海の名邸です。太宰治や谷崎潤一郎などの文豪がインスピレーションを得るために宿泊した旅館としても有名で、和洋折衷の調和が見事な建物と優美な庭園が見どころとなっています。2014年にはテレビドラマ『花子とアン』のロケ地にも選ばれ、全国的にその名が知られるようになった起雲閣。今回は、そんな起雲閣のおすすめスポットを厳選してご紹介していきます。大正ロマン溢れる熱海自慢の観光名所へ、ぜひ足を運んでみましょう。

1.起雲閣とは？

「起雲閣」は、1919年に実業家・内田信也が別荘として建てた大邸宅です。車椅子で生活をしていた母親のために建てられたというこの別荘は、座敷と畳廊下の高さを揃えるなど、母親への気遣いが伺える造りとなっているのが特徴。岩崎別荘、住友別荘と並んで「熱海の三大別荘」の一つにも数えられています。

1925年になると当時の東武鉄道社長であった根津嘉一郎に買い取られ、1929年にローマ風浴室を併設した洋館「金剛」が、1932年には「玉姫」と「玉渓」を備えた洋館が相次いで建設されます。その後、元衆議院議員の桜井兵五郎の手に渡り、1947年に旅館「起雲閣」としてオープンしました。

およそ50年以上にもわたって観光客や文豪たちを迎え入れ続けた旅館「起雲閣」でしたが、残念ながら1999年に廃業。2000年に熱海市が買い取ると一般公開されるようになり、2002年には熱海市の有形文化財に登録されました。

2.太宰治も使用した部屋「大鳳」

和館の2階にある座敷「大鳳（たいほう）」は、文豪・太宰治が泊まった部屋として有名です。1948年、編集者の計らいで起雲閣別館（1988年に取り壊し）にこもり小説『人間失格』を執筆した太宰は、愛人の一人である山崎富栄を伴いこの部屋に宿泊しました。

「大鳳」といえば、紫色の美しい壁が特徴なのですが、これは旅館としてオープンする際に塗り替えられたものなのだとか。職人が一枚一枚手作りした波打つ「大正ガラス」が印象的で、採光の良い窓からは瑞々しい緑溢れる日本庭園を見渡せます。

3.和洋折衷が魅力の洋館「玉姫」

起雲閣の洋館は、2代目の持ち主である根津嘉一郎によって建てられました。1932年に完成した「玉姫」は、部屋の正面に暖炉とダイニングテーブルを設置し、シャンデリアを吊るすというヨーロッパ風の造りが魅力。一方で、天井には格天井の中央部を一段高くする「折上格天井（おりあげごうてんじょう）」を採用するなど、日本とヨーロッパの建築様式を上手く取り入れ独特の雰囲気を醸し出しています。

4.ここは外せない「文豪の部屋」

「文豪の間・初霜」には、起雲閣ゆかりの文豪たちの資料が展示してあります。太宰治、三島由紀夫、舟橋聖一、武田泰淳などそうそうたる作家たちの略歴がパネル展示されており、彼らと起雲閣との関わりを学ぶことができますよ。隣には「尾崎紅葉の間・春風」や「坪内逍遥の間・松風」もあるので、ぜひ見学してみてくださいね。ちなみに、この3部屋をあわせて「展示室」と呼んでいます。

5.建設当時のものも残されている「ローマ風浴室」

採光の良い大きなステンドグラス窓と、白とピンクで統一されたタイルが特徴的な「ローマ風浴室」は、1929年に建てられた洋館「金剛」に併設しています。浴室は1989年の改築の際に大幅に改修されてしまいましたが、ステンドグラスとテラコッタ製の湯出口は建設当時のものがそのまま残されているのだとか。浴室内を優しく照らすランプの柔らかい光が、ノスタルジックな雰囲気をより一層盛り上げてくれています。

6.広い庭園を散策

およそ1000坪を誇るというの広大な庭園も、起雲閣の見どころの一つです。鉄道王・根津嘉一郎が手がけた「池泉回遊式庭園」は、日本の代表的な庭園と同じように中央に池を置き、その周りに築山や橋、名石を配すという造りで、鑑賞にも散策にも最適な美しい庭園となっています。四季折々の自然を楽しめる穴場スポットでもあるので、好きな季節を選んで訪れてみるのも良いかもしれませんね。

◎最後に：各種イベントや体験教室も開催中

起雲閣では、様々なイベントや体験教室を開催しています。オリジナルのしおりやコースターが作れる「押し花教室」や、旅の思い出を残すのにピッタリな「はがき絵教室」、初心者でもちりめん細工が作れる「熱海ちりめん教室」など、どれもお手頃価格で楽しめるのがうれしいところ。そのほか「編み物教室」や「アクセサリー作り教室」などもあるので、気軽に参加してみましょう。開催日や時間などの詳細は、公式サイトにてご確認くださいね。（※入館料の他に別途材料費が必要となります。）

文豪たちに愛された名邸「起雲閣」で大正ロマンに触れる観光