飛行機や船舶で国外へ移動する際に課される出国税。日本でも導入が決まり、2019年1月7日に徴収がスタートしました。日本を訪れる外国人観光客だけでなく、海外へ出かける日本人も課税対象となるので、この新税について無関心でいるわけにはいきません。ここでは、徴収開始から間もない出国税の現状について解説していきます。ただし、導入によって生じる問題や改善点について議論・整備しなければならない点はいろいろあります。今のところ決定していることでも、もしかしたら今後変更されるかもしれません。それを踏まえたうえで、海外渡航を検討する際の参考にしてください。
出国税とは
日本で導入される出国税は、正式には国際観光旅客税といいます。2018年4月11日に成立した国際観光旅客税法にのっとり、2019年1月7日に実際の徴収が始まりました。国の恒久税としては、1992年の地価税導入以来27年ぶりの新税となります。日本からの出国者すべてに一律1000円を課すもので、外国人旅行者だけでなく、海外へ向かう日本人も対象となります。
1人1人の負担額はそれほどでもありませんが、2017年の訪日外国人の数は約2800万人とされています。これに日本人の出国者数約1800万人を合わせると、4600万人×1000円=460億円ほどの税収が見込まれることになります。これは観光庁の予算の倍くらいに達するものです。政府は、2020年度までに訪日外国人を4000万人まで増やすことを目標としているので、達成すれば徴収総額もさらに大幅にアップするという皮算用です。
ほかにも導入している国はある?
出国者への課税に目を付けたのは日本が最初…といいたいところですが、出国税はすでにいくつかの国で導入されています。
よく知られているのがオーストラリアで、1人当たり60豪ドル(約5000円)の「出国旅客税」が課せられます。またお隣の韓国も、出国税に相当する1万ウォン(約1000円)の出国納付金を徴収しています。
アメリカでは、ビザ免除国からの渡航者に対し14ドル(約1500円)を課税。イギリスやフランスでも、航空旅客税や空港税という名称で導入されています。
徴収方法について
出国税がスタートしても、旅行者が負担を直接感じることはあまりないかもしれません。というのも、税の徴収は飛行機ないし船のチケット代に上乗せされる形で行われるからです。日本は島国なので、容易かつ取りこぼしなく課税できるという点も、比較的短期間の議論で出国税導入が決まった要因といえます。
近隣諸国への格安航空券であれば、あるいは値上がり感を覚えるかもしれません。実際に、導入直後から「1000円」は高いとの声も出ています。ですが1000円程度の変動であれば、海外航空券ならおそらくそれほど気にはならないでしょう。
導入開始時点でむしろ論点となっているのは、キャンセル時の扱いです。払い戻しの対応は航空会社によって異なるため注意が必要となります。とくにLCCの場合は、1000円の出国税の払い戻しに3000~4000円台の手数料がかかることも。国税でありながら扱いが会社ごとに違うことや、本来税として徴収されたものがキャンセルによって航空会社の収入になってしまうという点については、早くも疑問視されています。そのため、今後政府が何らかの対応をとる可能性が考えられます。
非課税対象
2歳未満の乳児や乗務員は課税対象にはなりません。また、入国後24時間以内に出国する人についても対象外です。これは日本での乗り継ぎを想定したものです。
さらに、出国後に天候不良によって引き返した場合も非課税となります。そのようなときには、もしもチケット代は返還されなかったとしても、出国税1000円については返還を請求することができます。ただし、先述の通り手数料などについては航空会社ごとに対応が異なるのでご注意ください。
使い道
出国税の使い道については、同時期に成立した改正国際観光振興法で定められています。それによると、1. 快適な旅行環境の整備、2. 日本の魅力に関する情報発信の強化、3. 観光資源の整備による満足度向上、の3分野に絞るとされています。
2019年の導入という時期設定からは、翌年の東京オリンピックのインフラ整備に向けた財源という見方が容易に成り立ちます。もともとサービスの質については外国人観光客からの評価の高い日本。インフラやサービスの維持やさらなる向上に結び付くというのなら、1000円の投資も高いものではないのかもしれません。
問題点
導入間もない出国税ですが、懸念されている問題点は他の目的税とほとんど同じです。すなわち実際の関連はほとんどなくても、旅行環境や観光資源の整備、あるいは情報発信のためとこじつければ、多額の予算が下りる可能性があるという点です。
ちょうど東日本大震災の後に、あらゆる省庁がむりやり「復興」の2文字を入れて予算をもぎ取っていったのと同じ構図が予想されるのです。なにせ観光庁の予算の倍は安定した収入が見込めるわけですから、多くの省庁が群がってくるところまでは仕方ありません。いかに精査し、無駄な支出を抑える仕組みを間に合わせることができるのかが課題となっています。
また、1000円とはいえ旅行費用に上乗せされることには変わりありません。そのため、訪日客の招致に影響が出ることも一部で懸念されています。他方で、税負担を嫌う日本人が海外旅行を避け、国内旅行の需要が増えるのではないかという見方も出ています。
◎まとめ
2019年1月7日に始まった出国税について、現状で明らかとなっている範囲でご紹介しました。1回の出国につき1000円ですから、海外旅行だけでたとえば年間1人1万円以上の納税額に達するような人は少ないでしょう。ですが、海外出張の多いような仕事の人などには、少なからず負担になり得ます。したがって、導入以降は格安航空券の需要が高まり、さまざまなプランが新しく登場するのではないかという期待も寄せられています。