名称:アルプス山系の先史時代杭上住居跡群(Prehistoric Pile Dwellings around the Alps)
公式・関連サイトURL:https://whc.unesco.org/en/list/1363/
世界遺産「アルプス山系の先史時代杭上住居跡群」は、紀元前5000年頃から前500年頃までにアルプス山脈周辺で建てられていた杭上式の住居跡です。ドイツ・スイス・イタリア・フランス・オーストリア・スロベニアの6か国にわたる合計111か所の遺跡が、2011年にまとめて世界遺産登録されました。
この記事では、アルプス山系の先史時代杭上住居跡群の概要や、アクセス方法、見どころを紹介します。
目次
【世界遺産】「アルプス山脈周辺の先史時代の杭上住居群」とは?
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アルプス山系の先史時代杭上住居跡群とは
世界遺産に登録されたアルプス山脈周辺にみられる杭上住居はいわゆる高床式の住居の一種です。湖や湿原などの湿地に杭を立てて、その上に住居が建てられていました。このような場所に家を建てたのは、外敵の侵入を防ぐ意味や貴重な農地を住居のスペースに割かないためと考えられています。
これらの先史時代に築かれた杭上住居は長い間水の中に沈んでいて、人の目に触れることはなくそのまま忘れられていました。その後1853年の後半から1854年初頭にかけて起こった大干ばつで、干上がった水の下から多くの先史時代の杭上住居が見つかり、再び日の目を見ることとなったのです。
今も構成資産のうち、約37%が完全に水没していて、残りのうちの30%も部分的に水に浸かっているとされています。
先史時代のものでありながら、水に守られていたことによって住居にあった遺物などが良好な状態で保存されており、古代の農耕生活や文化を現在に伝える貴重な遺跡です。
新石器時代、青銅器時代、初期鉄器時代における農耕生活の様子を理解するうえで非常に重要住居にあった遺物として、2011年に文化遺産として世界遺産登録されました。
住居内はきちんと寝室や台所と分かれていて、暖炉などもあるのが特徴的です。また住居跡から先史時代の人々が麦の栽培や、牛や豚を飼っていたことも分かっています。
「アルプス山系の先史時代杭上住居跡群」おすすめ①:ウンターウールディンゲン【ドイツ】
ボーデン湖畔の北側に位置する街、ウンターウールディンゲン。世界遺産の一画でもあるこの街では、杭上住居が復元されています。また水の中にはいくつもの木の杭が見られ、先史時代に実際にこの場所に杭上住居が建っていたことを証明するものです。
1922年に見事に先史時代の杭上住居が復元された住居では、裸足の小道や先史時代を体験できるようになっています。一歩中に入るとまるで先史時代にタイムスリップしたかのよう。また丸木舟や荷車、布地、紀元前3000年ごろのヨーロッパ最古の車輪など、ここで実際に出土したものも保管されています。
この先史時代の再現された杭上住居群は、私たちに旧石器時代からのアルプス周辺の人々の生活を伝える大切な野外考古学博物館(Pfahlbaumuseum Unteruhldingen)になっています。
またボーデン湖のあるウンターウールディンゲンは、ウォーターアクティビティーも楽しめます。世界遺産を観光しながら湖でのバカンスも満喫できる、絶好のおすすめスポットですよ。
「アルプス山系の先史時代杭上住居跡群」おすすめ②:シュタルンベルク湖【ドイツ】
バイエルン州にある湖、シュタルンベルク湖はミュンヘンから日帰りで行ける距離。海がないバイエルン州の人たちにとっても、人気のバカンスの場所です。
そしてシュタルンベルク湖にはケンプフェンハウゼンの新石器時代の杭上住居群と、ローゼン島の先史時代の杭上住居跡群があります。とくに湖に浮かぶ小さなローゼン島は島にある杭上住居群として、珍しく貴重な資料。先史時代の杭上住居の層が良い状態でたくさん残っているんです。今でも浅瀬で杭などの跡を見ることができますよ。
この場所では約2500年前の鉄器時代と思われる土台の梁も見つかっています。さらには新石器時代中期の歴史も見られ、非常に長い間集落が続いていたことに驚かされます。クルーズやカジノなど贅沢なレジャーも満喫できるシュタルンベルク湖。世界遺産とともに楽しむのもいいですね。
「アルプス山系の先史時代杭上住居跡群」おすすめ③:ラテニウム【スイス】
1857年、干ばつによりヌーシャテル湖の水位が下がり、湖底の泥中から木製の杭列が顔を出しました。これにより史上初めて、杭上住居跡の存在が世界に知られることになりました。
この遺跡は紀元前500年ごろのものとみられ、住居跡のほかに大量の武具が見つかっています。遺跡の最寄りの村ラ・テーヌの名前をとって、この遺跡の示す文化圏はラ・テーヌ文化と呼ばれています。
出典: By Jl.ribaux - Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=16715744 (CC BY-SA 3.0)
ヌーシャテル湖畔にあるラテニウムは、湖で発掘された数々の出土品を収蔵するために建てられた考古学博物館兼研究センターです。ラテニウムの名称はラ・テーヌからきています。
館内では世界遺産「アルプス山系の先史時代杭上住居跡群」にまつわる資料を豊富に展示。氷河期から中世まで約5万年にわたってその地で暮らしていた、ネアンデルタール人の歴史も紹介されています。隣接する公園には野外展示場があり、見つかった杭跡や橋がそのまま保存されていますよ。
「アルプス山系の先史時代杭上住居跡群」おすすめ④:レドロ湖杭上家屋群博物館【イタリア】
レドロ湖東部に位置するレドロ湖杭上家屋群博物館では、当時実際に使われていた杭上家屋群を再現しています。館内には遺物や資料が展示されているので、当時の様子をイメージしながらこの世界遺産について詳しく知ることができるでしょう。
湖畔に建てられた杭上家屋群はどこかリラックスできるような空間でもあって、リゾート空間と思わせるような雰囲気でもあります。さらに夜になると杭上家屋群がライトアップされ、一気に幻想的な空間へと変化。昼とはまた違った杭上家屋群の姿を見せてくれます。この世界遺産について詳しく知りたい方はぜひ足を運んでみてください。
「アルプス山系の先史時代杭上住居跡群」おすすめ⑤:ウィーン自然史博物館【オーストリア】
オーストリア最大規模の大きさを誇るウィーン自然史博物館は、世界遺産「アルプス山脈の先史時代の杭上住居群」について詳しく知ることができます。
約3000万点の収蔵品がある世界でも主要な博物館の一つで、世界遺産についてはもちろんオーストリアの自然や生物についても学ぶことができます。約2万5000年前のもの言われている出土品「ヴィレンドルフのヴィーナス」などの有名な展示品がたくさんあることから、ウィーン人気の観光スポットになっています。
興味を惹かれる展示品ばかりで、普段あまり博物館を訪れない方でもついつい時間を忘れて楽しんでしまうでしょう。外観も内装も王宮を思わせるような豪華な造りになっています。
「アルプス山系の先史時代杭上住居跡群」おすすめ⑥:モンゼーランド博物館【オーストリア】
出典: By Thomas Ledl - Own work, CC BY-SA 3.0 at, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=40434245 (CC BY-SA 3.0)
世界遺産「アルプス山脈の先史時代の杭上住居群」に登録されているモンゼーには、先史時代の歴史について詳しく知ることができる博物館が数多くあります。農場博物館と野外博物館は、世界遺産に関連した遺品や写真、模型などを展示しているモンゼー人気の観光スポットです。
農場博物館では主に先史時代の農業に関連したものが展示され、野外博物館では杭上住居をはじめ建築に関連したものが展示されています。特に農業体験ができるワークショップは好評。子供から大人まで楽しめる博物館なのでモンゼーに訪れたらぜひ足を運んでみてください。
「アルプス山系の先史時代杭上住居跡群」おすすめ⑦:リュブリャナ沼地【スロベニア】
出典: By semperidem 2007 from Ljubljana - Ljubljansko marsh 1Uploaded by sporti, CC BY 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=27228492 (CC BY 2.0)
スロベニアの首都・リュブリャナはスロベニア唯一の国際都市。歴史は古く、その証拠とも言える世界遺産の杭上住居群はリュブリャナ沼地で発見されています。紀元前2000年頃にはこのリュブリャナ近郊にある湿地帯で人々は暮らしていました。今でもこの湿地帯に訪れると、たくさんの杭が水の中に残っていることがわかります。
このリュブリャナ沼地一帯で暮らしていた人々は狩りや漁業、簡易的な農業をしていたと考えられています。また、このリュブリャナ沼地では様々な部族や人々の生活の跡がたくさん発見されました。ケルト人やイリュリア人が混ざったラピデスと言われた部族に3世紀のケルト人、タウリスキ族の形跡も残っています。
出土されたリュブリャナ沼地の住居跡の杭は1875年に発見。150平方mの面積の中に40ほどの住居跡の杭が残っていました。アルプス周辺の杭上住居の跡からは麦の栽培を行っていたり、牛や豚などの家畜を飼っていたということも判明。ドナウ文化と似ているのが特色で、木製の車輪、軸、ホイールが発見されています。
「アルプス山系の先史時代杭上住居跡群」おすすめ⑧:スロベニア民俗博物館【スロベニア】
スロベニアの紀元前の人々の暮らしを知ることができるスロベニア民俗博物館。館内にはリュブリャナ沼地で発掘された杭上住居に関する資料が展示されています。
当時の様子を再現した絵なども展示され歴史や文化、民族に関することも分かる展示が盛りだくさん。杭上住居群に訪れる前に足を運ぶと、色々な視点で観れて面白いですよ。モダンなデザインが特徴の外観もまた写真に収めたくなります。
スロベニアには、リュブリャナ市博物館やスロベニア国立博物館などの博物館が数多くあります。先史時代の杭上住居群について興味のある方はぜひチェックしてみてください。
アルプス山系の先史時代杭上住居跡群へのアクセス
◆ドイツ
ボーデン湖畔にある先史時代杭上住居跡群に行くのには、まずコンスタンツの街へ行きましょう。コンスタンツはフランクフルトから電車でおよそ4時間半。コンスタンツに着いたらバスか船での移動になります。
シュタルンベルク湖にある先史時代杭上住居跡群にはミュンヘン中央駅から電車で30分あまり。ミュンヘンからは比較的行きやすいスポットです。
◆スイス
ラテニウム考古博物館のあるヌーシャテル湖までは、スイスの特急列車ICNで向かいます。ジュネーブからなら1時間余り、スイスの首都ベルンからなら約50分でヌーシャテル湖駅に到着します。
ヌーシャテル駅からはバスに乗り、「ラテニウム(Laténium)」バス停で下車して徒歩5分弱です。
◆イタリア
「ヴァレーゼ湖」まで車でアクセスできます。ミラノ国際空港から移動すると約30分、ミラノの中心地から移動すると約1時間で到着。「ガルダ湖畔」も車で移動することができます。ミラノから移動すると約2時間、ベネチアから移動すると約1時間40分です。
「レドロ湖杭上家屋群博物館」もガルダ湖畔同様に、ミラノやベネチアなどから車でアクセスが可能です。ミラノから移動すると約3時間、ベネチアから移動すると約2時間30分。また、ガルダ湖のリーヴァ・デル・ガルダから「Trentino Trasporti社」のバスが運行しています。所要時間は約30分です。
◆フランス
フランスは11か所登録されています。ここでは、ブルジェ湖とアヌシー湖へのアクセス方法を紹介します。
まず、ブルジェ湖への行き方は、東京・大阪から出ている直行便でパリ=シャルル・ド・ゴール空港へ。所要時間は約13時間です。パリからは高速鉄道を使ってシャンベリーへ移動します。所要時間は約3時間。シャンベリーからは30分程度でブルジェ湖に到着できます。
アヌシー湖はブルジェ湖同様、シャルル・ド・ゴール空港まで行き、パリからは高速鉄道でアヌシー駅まで約4時間。駅からは1時間程度で行けます。もしくはスイスのジュネーブ空港から車で行くことも可能で、所要時間は約1時間30分です。
◆オーストリア
オーストリアの「アルプス山脈周辺の先史時代の杭上住居群」は、コイチャッハー湖、アッター湖、ゼーヴァルヒェン・アム・アターゼー、モンゼーの4ヶ所にあります。
ザルツブルクから車を利用すると効率良く全てを回ることができるのでおすすめです。飛行機でザルツブルクに向かう場合は、オーストリアの首都ウィーンやトルコのイスタンブールなどで乗り継いでください。
モンゼーの杭上住居について学べるモンゼー歴史博物館へは、高速道路A1を利用するとアクセスしやすく早くて便利。ウィーン自然史博物館は地下鉄やトラムなどでアクセスできます。フォルクスシアター駅もしくはカールレナーリング駅から歩いて約4分です。
◆スロベニア
日本からスロベニアへ直行便はありませんので、ドイツのフランクフルト、フィンランドのヘルシンキ、トルコのイスタンブール経由などで乗り継ぎをする必要があります。リュブリャナ市街地までは、空港から車で30分ほどです。
◎世界遺産「アルプス山系周辺の先史時代杭上住居群」まとめ
ドイツ・スイス・イタリア・フランス・オーストリア・スロベニアの6か国にまたがる世界遺産「アルプス山系の先史時代杭上住居跡群」をご紹介しました。決して華やかな世界遺産ではありませんが、歴史的価値は計り知れない杭上住居跡。考古学的な価値が注目されている世界遺産ですので、大部分は観光地化されていません。
それだけに謎の多い先史時代に想いを馳せる、ロマンチックな旅ができそうです。