オーストリアはウィーンに引き続きザルツブルクの情報です。(※11/3からオーストリアでは2回目のロックダウンが始まりました。)
ザルツブルクといえば神童・モーツァルトが生まれた地で有名で、毎年夏はザルツブルク音楽祭が開催され世界中の音楽家で賑わいます。映画「サウンド オブ ミュージック」の映画のロケ地でもあり、世界中の人々に愛される街です。
今回、ザルツブルク・モーツァルテウム大学でヴァイオリンを学ぶ篠山春菜さんに現在のザルツブルクの様子についてリポートしてもらいました。(写真は全て篠山さん撮影のものです)
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【コロナ禍の海外】オーストリア、ザルツブルクの今
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ロックダウン中、静寂のザルツブルク
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前回のロックダウンは3月中旬から5月中旬まででした。2回目のロックダウンは1回目ほど厳しくなく、レストラン営業と演奏会場でコンサートができないこと以外は何も変わっていないです。私が学ぶ大学でもクラスターも発生していないので今回はかろうじて開いています。
1回目のロックダウンでは、まず、コンサートを始めとする学校のイベントがすべてなくなりました。ちなみに、PCR検査は学校の補助で1回目だけ無料で受けることができるシステムです。
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モーツァルトの生家がある有名なゲトライデ通りが閑散としている
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普段は人々で賑わう街が静寂に包まれている
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寂しそうなモーツァルト像
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ロックダウン中は全ての公共施設、公園等は閉鎖されていた
お店の様子
ロックダウンに備えてか、スーパーからトイレットペーパーが消えました。
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トイレットペーパーは見ての通り売り切れ状態に
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「遂にまた再開しましたよ」という靴屋さん
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7ユーロ(日本円で約860円)で売られている手作りマスク
コンサートの様子
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野外で演奏する音楽家たち
5月中旬から大学が開き、3か月ぶりにピアニストとアンサンブルの練習をしました。ロックダウン中は外に楽器を出すこともなく自室でずっと一人きりで練習していたので、久々のピアニストとの演奏は新鮮でした。
これまでロックダウン以前はホールなど、広い空間で演奏していたので、自分の楽器の音が小さく聞こえたことにとても驚きました。誰かと一緒に演奏することも、自分の部屋以外で弾くのも久々だったからでしょう。思わずピアニストに「ねぇ、私の音、なんか小さくない!?」と尋ねてしまいました。
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カルテットで演奏する篠山さん
コロナ禍での一筋の光
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ベルチェア・カルテット
1回目の約3ヶ月程の長いロックダウンは、人との接触はほぼなく、外出禁止令も厳しく警察によって管理されたため、今まで感じたことない緊張感の日々でした。その3ヶ月間は、人の音楽を生で聴くことは一度もありませんでした。
措置の緩和が5月からありましたが、世界中で行われる音楽祭が続々とキャンセルになり、残ったのは、ザルツブルク音楽祭だけ。しかも1ヶ月の縮小版。通常なら夏のザルツブルク音楽祭は1か月半続きます。しかも100周年目だったのでもっと長く開催される予定でした。
私としては、縮小版でもこのコロナ禍で、人からの音楽を提供してくれる場を設けてくれたことに感謝の気持ちでいっぱいでした。いつものことながら、小さい町このザルツブルクに住んでいるからこそ、さっと足を運べる幸せを感じました。
それを強く感じさせてくれたのは、ベルチェア・カルテットによるコンサート。
家で一人で練習する音しか聞いておらず、人の音楽に生で触れることがなかったのです。なにか閉ざされた私の世界に、彼らが発した一つ目の音で一瞬にして私の心に光を与えてくれました。そして、自分の中でカチコチに固まっていた何かがどんどん溶けていき、心が暖かくなっていく感覚でした。それがとても新鮮で、私にとって一生忘れられないコンサートとなりました。
コロナ禍で、ヨーロッパでも多くの芸術家は難しい立場に追いやられていますが、この瞬間だけは、自分の仕事が、いい役目を果たせるお仕事なのだと確信しました。音楽は言葉よりも先に伝わるということ、そして、受け取る側はそれぞれの解釈をさせてもらえるスペースが与えられるのだと実感できました。
今は2回目のロックダウンの真っ只中ではありますが、措置の内容もそこまで厳しくありません。残念ながら11月に予定していたコンサートは全てキャンセルになってしまいましたが、今回、この夏にあったあの演奏は、これからの私に大きなエネルギーを与えてくれた、忘れられない思い出です。
2020年、コロナ禍での100周年目のザルツブルク音楽祭
世界的にも有名なザルツブルク音楽祭は2020年で100周年を迎える音楽祭です。コロナ禍ですが、今年も開催に踏み切りました。いつもコンサートでは曲の楽章の間に聴衆は咳き込みますが、やはり、新型コロナウイルスに感染していると思われたらいけないので咳はしていませんでした。
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みんなマスクをしています
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大盛況のコンサート
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コロナ禍でもコンサートは大盛況でした。
8/30の公演には篠山さんも出演しています
両方ともザルツブルク音楽祭100周年記念のもの。本当は5月からのとても長い音楽祭で、演目の量も多いコンサート三昧になる予定のはずでしたが、ほとんどの企画は来年に延期、今年は8月の1ヶ月だけにして縮小版が急遽企画されました。
コンサート、客席の様子
基本、建物内ではマスクをすることを義務付けられているので聴衆はマスクをしています。
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コロナ禍での過ごし方
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サウンド オブ ミュージックの結婚式のシーンで使われた教会があるモントゼー(湖)
コロナ禍でのリフレッシュとしては、バカンスができないので行くとしたら湖程度でした。
ただ、欧米人は夏休みにバカンスを楽しむので、感染者数が落ち着いた夏に国境を越えてバカンスを楽しんだ結果が今に繋がっているように思えます。
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旧市街と新市街の間のザルツァッハ川
街の落書きに他人との繋がりを感じる
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とにかく、1回目のロックダウンは孤独でした。人と会うことも制限され、外にも自由に出られない状況です。
街中でふと壁を見ると「Was kochst du heute?(今日のご飯なんにする?)」という落書きが目に入りました。なんの変哲もない落書きですが、ふと問いかけられたような気がして、久しぶりに人との繋がりを感じたんです。私ひとりじゃないんだ、と、孤独感が拭われたあの気持ちを今でも覚えています。
ザルツブルクの散歩道
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情報提供者:ザルツブルク在住の篠山春菜さんについて
ブラジルにて4歳よりヴァイオリンを始める。桐朋女子高音楽科、ザルツブルク・モーツァルテウム大学 学士課程卒業し、現在、修士課程に在籍しながら演奏活動を行なっている。ザルツブルク・モーツァルテウム大学において、特にモーツアルトの作品やソナタなどの室内楽の演奏での高評価を得て、2016年際立って優れた演奏家に与えられるポール・ロチェック賞と奨学金を受賞。
第1回若い音楽家のモーツアルト国際音楽コンクール(中国)シニア部門第1位、第9回レオポルド・モーツアルト国際音楽コンクール(ドイツ)室内楽最優秀賞、第17回ルジェロ・リッチコンクール(オーストリア)第2位他。
Beija-flor String Quartetとして、2018年モーツアルト国際音楽コンクール(オーストリア)セミファイナリスト。日本、トルコ、セルビア、ブラジル人で構成されたカルテットの個性ある音楽が評価され、2021年ザルツブルク 夏の音楽祭への出演が決まっている。
篠山春菜さんのYouTubeチャンネル
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篠山春菜さんの所属する弦楽四重奏団のインスタグラム