アイルランド - ノックについて

ノックとは、アイルランドの北西部メイヨ―州にある小さな町で、20世紀にはフランスのルルド、ポルトガルのファティマと同じく聖母マリアゆかりの地として多くの巡礼者を集め、現在も多くの巡礼者が訪れます。ノックは人口1000人にも満たないほどの小さな町であるにも関わらず、巡礼や観光に訪れる人々が年間数万人にも上るほどの有名な巡礼地あるいは観光スポットです。ノックの気候はアイルランドの諸地域と同様に西大西洋の影響を受けており、北大西洋海流という大きな暖流のおかげで海水温が高めに保たれ海岸線を取り巻くように丘陵や山があるため、海からの強風は内陸部に影響を及ぼしません。ノックの町があるメイヨ―州をはじめ、アイルランド全域の天気は変わりやすいですが同程度の緯度にある他の国々のような厳しい気温差はなく、平均10℃程度と温暖で、過ごしやすく旅行等にも適した気候であるといえます。ノックの町には町の大きさと比較して大きすぎるのではないだろうか、と思うほどの大きな聖堂がありますが、これはこの町の教区司祭の家政婦メアリー・マクローリンが1879年8月21日に友人と共に聖ヨハネ、聖ヨセフ、聖母マリアを目撃、騒ぎを聞きつけた群衆もまた3人の聖人を目撃しました。ノックの聖母はファティマの聖母などのように予言を残すことがなく、一言も言葉を発することがなかったため「沈黙の聖母」と呼ばれ、当初は教区の聖職者の多くは「プロテスタント警察官によるいたずらであり、村人たちはそのいたずらの犠牲者である」と、聖母の顕現に懐疑的な態度を示していましたが、衣服や体形までもはっきりとわかり、しかも約3時間もの間多くの人々にその姿が目撃されていること、数年後にトロントの大司教ジョン・ジョセフ・リンチが訪れた際に「聖母によって癒された」と断言したことなどを受け、1971年に聖母マリア及び聖ヨセフ・聖ヨハネの出現を承認しました。ノックの町に聖ヨセフ、聖ヨハネ、そして聖母マリアが出現したという伝承を聞きつけて多くの巡礼者が訪問するようになるまでそれからさほど時間はかからず、もともとこの地域にあった教会では小さすぎてとても巡礼者たちを受け入れることはできない、と新たにこの「ノック聖堂」が建立されたという経緯があります。ノックの聖堂は1979年には聖母マリアへ特に強い信心を持っていた当時のローマ教皇ヨハネ・パウロ2世が公式訪問し、世界中から集まった信徒たちと共にミサをささげたエピソードも有名です。ノックの町を訪れる人々の多くが目指す場所が「聖母マリアの丘」で、この町のシンボルともいえるであろうこの場所は、バシリカ様式（長堂式）の建物が目を引きますが、その内部には聖人の出現の伝承を模したような聖ヨセフ、聖ヨハネ、聖母マリアの3体の像が安置され、その背後には天使のレリーフがあります。ノックの町まで足を運んで本当に良かった、と思えるほどの美しさ、静謐さを感じることができます。ノックの聖水も顕現した聖母によって癒されたというエピソードからけがや病気などへの癒しを求めたり、またご利益を求める人々にとても人気があります。ノックの聖水は意外かもしれませんが蛇口をひねるだけで出てくるうえ、制限がないため好きなだけ汲むことができます。また入れ物を忘れてしまっても聖母マリアの丘の売店でポリタンクやコップを販売しています。町を訪れた際には記念に汲んで帰ってはいかがでしょうか。ノックの町で起きた奇跡について興味を持ったならば、聖母マリアの丘の敷地内にある博物館を訪れてみることをお勧めします。ノック博物館では、町で最初に聖人たちを目撃した人物の証言や、後年のインタビューについて、正式に「奇跡である」と認められるまでの経緯など、興味深い資料がたくさん展示されており、たとえキリスト教徒でなかったとしても強い関心をひかれることでしょう。ノックの町に宿泊するのであれば、美しい夜景も見逃せません。ノックの聖母マリアの丘のバシリカは、夜になるとライトアップされ、その白く大きな姿を夜空に輝かせます。ノックは大きな商店などもない小さな田舎町で、敬虔なキリスト教徒のみが巡礼に訪れる地であるかのように感じられてしまうかもしれませんが、決してそのようなことはなく、異国の文化に触れてみたい方や美しい像や建物を鑑賞してみたい方、歴史に興味のある方も満足することができる場所です。